阪急沿線文学散歩

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川端康成『古都』に描かれた京都府立植物園を訪ねる

 梅が見ごろとなり、先日京都府立植物園の梅林を訪ねました。


ところでこの植物園は、川端康成の小説『古都』にも登場します。

『古都』は京都を舞台に、四季折々の美しい風景や京都の伝統を背景に、生き別れになった双子の姉妹の数奇な運命が描かれた作品で、京都各地の名所や史蹟、年中行事が盛り込まれています。

 また何度も映画化、テレビドラマ化、舞台化された作品でもあり、初回映画化(昭和38年)の主演は岩下志麻さんでした。

 京都府立植物園は日本で最初の公立植物園として、大正13年に開園していますが、昭和21年から12年間は連合国軍に接収され、昭和36年4月にようやく再開しています。
 朝日新聞に『古都』が連載され始めたのは、再開直後の昭和36年10月からですから、『古都』では次のように書かれています。
<植物園はアメリカの軍隊が、すまいを建てて、もちろん、日本人の入場は禁じられていたが、軍隊は立ちのいて、もとにかえることになった。
 西陣の大友宗助は、植物園のなかに、好きな並木道があった。楠の並木道である。楠は大木ではないし、道も長くはないのだが、よく歩きに行ったものだ。楠の芽ぶきのころも…。
「あの楠は、どないなってるやろ。」と、機の音のなかで思うことがあった。まさか占領軍に伐り倒されてはいまい。宗助は植物園が、ふたたび開かれるのを待っていた。>
朝日新聞連載時の挿画は小磯良平によるものでした。




「くすのき並木」は今も健在で、楠木は大木になっています。

 仁和寺の御室の花見に行った太吉郎、しげ、千恵子の三人は、花見客の騒々しさに辟易し、静かなところへ行こうと車で、再開したばかりの植物園に向かいます。
<植物園は、この四月から、ふたたび開かれて、京都駅の前からも、新たに植物園行きの電車が、しきりに出るようになっていた。「植物園もえらい人やったら、加茂の岸を少し歩くのやな。」と、太吉郎はしげに言った。>

賀茂川沿いの道もいい散歩道になっています。

<植物園は門の前の並木道から、ひろびろと明るかった。左は加茂の川づつみである。しげは入園券を、帯のあいだにはさんだ。ひらけるながめに、胸もひろがるようだった。>

植物園の正門に至る並木道です。
<植物園に入ると、正面の噴水のまわりに、チュウリップが咲いていた。「京都ばなれした景色どすな。さすがに、アメリカさんが、家を建ててはったはずや。」と、しげは言った。「そら、もっと奥の方やったんやろ。」と、太吉郎は答えた。噴水に近づくと、そう春風もないのに、こまかいしぶきが散っていた。噴水の左向うには、円い鉄骨のがらす屋根の、かなり大きい温室が、つくられていた。>
正門を入り、少し歩くと大きな温室が見えてきます。

4月になれば、書かれているようにチューリップが一面に咲くことでしょう。

今は、かわりにキンギョソウが花盛りでした。

正面にあった噴水というのは今はなく、洋風庭園に移したようです。

< ひまらや杉の若芽の下枝が、孔雀の尾をひろげたようだとするなら、ここに咲き満ちる、いく色ものチュウリップは、なににたとえたものだろうかと、太吉郎はながめつづけた。花々の色は、空気を染め、からだのなかまで映るようであった。>

ひまらや杉のある洋風庭園、現在はばら園になっていますが、小説を読むと、当時はチューリップ畑だったようです。

< 叡山、東山、北山は、植物園のほとんどいたるところでながめられるのだが、しゃくやく園の東の叡山は、正面のようであった。「比叡山は、濃いかすみのせいか、なんやら、低う見えるようやおへんか。」と、宗助は太吉郎に言った。「春がすみで、やさしいて……。」と太吉郎はしばらくながめていて、「そやけど大友はん、あのかすみに、ゆく春を、お思いやさしまへんか。」「そうどすな?」>と話は進みます。

しゃくやく園にも行ってみましたが、養生中でした。

植物園の木が大きく育ったせいか、叡山が眺められる場所も限られています。


<「大友はん、あんたのお好きやいう、楠の並木を通って、帰りまひょうか。」と、太吉郎は言った。「へえ、おおきに。わたしは、あの並木を歩いたら、それでよろしいのどす。来る時も、くぐって来ましたんやけど……。」と、宗助は千重子を振りかえって、「お嬢さん、つきおうとくれやすな。」楠の並木は、木ずえで、左と右の枝が交わしていた。その木ずえの若葉は、まだ、やわらかく薄赤かった。風がないのに、かすかにゆれているところもあった。五人はほとんどものを言わないで、ゆっくり歩いた。めいめいの思いが、木かげでわいてきた。>

最後は再びくすのき並木を通って帰って行ったようです。

 3月も梅林や、クロッカスなど美しく、園内の散歩を楽しめましたが、4月、5月になれば緑も芽吹き,花も一面に咲きそうですから、もう一度訪れたくなりました。




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阪急沿線の街にゆかりのある小説や随筆、アニメの舞台を訪ね、当時の景色や登場人物に思いを馳せるセンチメンタル散歩です。震災以降、街並みは大きく変わりましたが、歴史ある美しい景観を守る一助になればと思っています。

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