いつもの光景が目の前にある。ホッと気が安らぐ。図書館を利用して、もう7年。身の置き所をなくした定年退職者が落ち着いた先だった。振り返れば子供の頃もそうだった。

 すごく人見知りな小学生だった。友達も簡単に作れず、先生の前でオドオドと口を閉じてしまう。休み時間は、遊びに興じる級友たちの仲間入りもできず、ひとりぼっち。身の置き所がなかった。そんな孤独な子供が幸運にも出会ったのは図書室だった。

 誰にも邪魔されず、好きな本を黙々と読み時間を過ごした。「Sくんは図書室です」と、クラスの誰もが答えるほど入り浸った。

 本は読み手に何も求めなかった。家や学校みたいに叱ることはなく、ただ未知の世界と知識を無尽蔵に与えてくれた。孤独な少年がいじめられも仲間外れにもされずに成長できたのは、間違いなく図書室のおかげだった。

 きょうも訪れている図書館も、誰彼に気兼ねする必要はやはりない。新聞や雑誌、書籍を閲覧しながらも、みんな一人一人の世界を自由に過ごしている。孤独を余儀なくされる人間には実に理想的な場だった。

 「○○新聞、読みはります?」

 新聞を読み終わった人が、気さくに声をかけあう。毎日図書館ライフを満喫する同じ立場だから、見知らぬ相手でも昵懇(じっこん)になれる世界が自然に生まれる。本を通じた仲間が!

 いつも優しく迎えてくれる図書館。わが人生に図書館があった幸運を素直に喜んでいる。

齋藤 恒義(68) 兵庫県加西市


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