「誤算だった」と心の中でつぶやいたのは、3月下旬東京行きの新幹線の自由席に座った直後であった。

 早朝の新幹線、睡魔に襲われつつも比較的周りの乗客の様子に鑑み、適切な席を確保し、眠りにつこうとした瞬間に事態は急変した。甲高い中高年女性の大阪弁がだんだん近付いてきて、こともあろうに通路を挟んだ私の横に3人の女性が席を確保した。即、シートを向かい合わせに回転させ吉本新喜劇バリの会話が始まった。

 私は睡眠に陥る最善の努力をしようと思ったが、3人の大阪弁は容赦なく土足で私の聴覚に入り込んできた。「朝ごはんにおにぎり握ってきたんや」「あっ、うち漬物持ってきたで」「おしぼりようさん持ってきた。回転寿司行ったときこっそりもろたんや。しょうゆもあんで」。その迫力に、周りの声は全く聞こえない。無駄な抵抗はやめようと私はまぶたを開け、かばんから文庫本を出しおもむろに文字に目をやった。

 しかし、予想外に彼女たちの話は奥深く「不安なんかほっといたらええねん」「人生笑っている人間が勝ち組や」「ほんまに貧乏したけどそのときの方がなんか楽しかったわ」。そして「死んだ旦那も一緒に連れてきたってん。ほら」と一人の女性が写真を取り出した。

 「あんたとこ死んでもラブラブやな」と笑い声が車内に響き渡り、ふと気がつけばなんとなくほっこりしている自分がいた。「『誤算だった』との思いは誤算だった。なんでやねん」などと一人だじゃれをつぶやきながら「生きているって捨てたもんじゃないな」と感じた、“大阪おばちゃんワールド”を堪能した車中であった。

小森 ちあき(51) 元幼稚園職員 大阪府八尾市


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