阪急沿線文学散歩

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西宮に住んだ女流作家・池田蘭子の家族らにより創出された猿飛佐助


 池田蘭子『女紋』は、著者の祖母山田敬が、愛媛県今治へ巡業に来た大阪の講釈師玉田玉秀斎を知り、夫と五人の子を残して大阪へ出奔し、やがて立川文庫を創設して死ぬまでの後半生の実伝を小説風に記録したものです。

 私が良く知らなかった大衆小説の源流と言われる「立川文庫」について、『女紋』には、その創設の経緯が詳しく書かれています。
 1890年代に 講談を速記して本にすることが流行し、旅回りの講談師玉田玉秀斎の妻となった山田敬の連れ子である山田阿鉄(山田酔神)が、速記者を使わずに直接講談を筆記する書き講談を思いつきます。


 この書き講談を小型本(文庫本)化する案を、唯一受け入れたのが、1904年に立川文明堂の立川熊次郎でした。

 装丁は、当時刊行されていた袖珍文庫を模倣し、四六版半裁のクロス装、
縦12.5cm、横9cm。袖珍文庫の表紙の「銀杏」の模様に変えて、池田蘭子の家の
着物などにつける裏紋(「女紋」)である蝶紋が立川文庫表紙に意匠されました。

「胡蝶」を使ったことから対比され、袖珍は「いちょう本」、立川は「こちょう本」と呼ばれて多くの人に親しまれたそうです。

 『女紋』の最後に、足立巻一氏があとがきを寄稿されており、次のように評されています。
<この作品は小説としても人間記録としても興味深いものだが、さらに明治、大正の大衆文化史に貴重な資料を加えるものである。ここに描かれた『立川文庫』の成立の事情はこの実伝ではじめて明らかになったのであり、関係者のほとんどが物故したいまでは、これ以上詳細な記録を今後求めることはできないだろう。
 大阪の立川文明堂から出版されたこの講談本の双書は、明治末年、読む講談から書く講談へ転換し、いまの大衆小説の一つの源流となり、一つの大衆文化史上の概念をつくっているものだ。また、文庫がつくりだした多くの民衆の英雄像はいまも生きている。たとえば猿飛佐助は多くの文学者によって書きつがれ、幾度となく映画化され、最近にも「平和を守る佐助」として色彩マンガ映画になるほど、その生命は衰えていない。>

 さらに足立巻一著『立川文庫の英雄たち』でも、立川文庫について詳しく述べられ、そのなかで初刊の主人公の一人真田幸村について、
<初刊の主人公のうちで、最も注目されるのは真田幸村である。そこに登場する猿飛佐助・霧隠才蔵がほどなく大活躍して大正期の忍術ブームを巻き起こし、文庫の人気を不動のものとするとともに、文庫の性格・方向を決定してしまうからである。>と述べています。

 私たちがよく知る猿飛佐助、霧隠才蔵など真田十勇士は池田蘭子の兄「於鉄」等が創造したもので、猿飛佐助は西遊記の孫悟空をイメージし、最初の忍者ブームが起きたのは明治末のことでした。池田蘭子は『女紋』の最後で「かきおえて」と題した後書きで、
<なお、私どもがたくさん創造しました勇士たちのうちでも、今も一番愛着を持つのは「猿飛佐助」です。これだけは『立川文庫』にじっと坐っていてほしいと思います。今も何かでこの名前を見ますと、とっさに自分の肉親が不当な扱いを受けているような、また、こんなに過分にかわいがられているのかと嫉妬のような念でながめ、あるいは恐いもののように目をそらしてしまします。>
と「猿飛佐助」への愛着を語っています。

今や忍者は観光資源となって外国人観光客まで引き寄せています。



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池田蘭子 | コメント( 2 ) | トラックバック( 0)

 立川文庫という名前は聞いたことがありますが、実際には何も知りませんでした。興味深いお話、有難うございました。

[ mamimi ] 2016/04/04 9:57:31 [ 削除 ] [ 通報 ]

私も芸文センターの催しで詳しく知ることができました。『女紋』は舞台化されるのも当然と思われる、3代にわたる女性の凄まじい物語で、その池田蘭子さんが西宮に住まれていたというのも驚きでした。

[ seitaro ] 2016/04/04 20:20:42 [ 削除 ] [ 通報 ]

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西宮に住んだ女流作家・池田蘭子の『女紋』


 兵庫県立芸術文化センターで「講演&トーク&講談『女紋』〜池田蘭子と立川文庫の時代〜」というイベントが開催されました。


[第1部] 講演「池田蘭子と立川文庫」
川東 丈純(県立図書館総務課長、芸名・ビブリオ堂ちんげんさい)

[第2部] トーク「“女紋”と池田蘭子」 ※無声映画『猿飛佐助』上映

旭堂 南陵(講談師)河内 厚郎(兵庫県立芸術文化センター特別参与)

[第3部] 講談「猿飛佐助」旭堂 南陵

という構成で進められました。

 女流作家・池田蘭子の『女紋』は、大正時代に一世を風靡したという“立川文庫”の誕生を中心に描いた小説です。

 池田蘭子は、津門稲荷町に住んで、西宮の四季のうつろいを楽しんだようです。
「グラフにしのみや」に「晩秋の夙川、鷲林寺」と題して、次のように始まる文章を寄稿していました。
<西宮は市内で手近に四季の景観にめぐまれている。私は家から近いせいもあって、何かといえば夙川堤によく行く。ここは時期によって、ガラリと風色の変化がある。……>

 早速、自伝的小説『女紋』を西宮市立図書館で借りて表紙をめくると、何と池田蘭子さんご本人が西宮市立図書館に寄贈されたものでした。


 昭和35年の発表後、TVドラマ化及び舞台上演(菊田一夫演出、山田五十鈴主演)されています。

“立川文庫”の誕生については次回に。



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