阪急沿線文学散歩

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阪神間のセレブな生活を垣間見る高殿円の『上流階級 富久丸百貨店外商部』

 テレビドラマにまでなった高殿円『上流階級 富久丸百貨店外商部』。


 バイトからのたたき上げで、契約社員から晴れて富久丸百貨店の正社員になった30代半ばの鮫島静緒は、突然百貨店の年商の約3割を稼ぐ外商部へ異動になります。芦屋の高級住宅街に車を走らせ、宝飾品や化粧品から結婚式の引き出物の手配まで、お得意様のあらゆる要望に応える外商の姿がリアルに描かれています。
 主人公鮫島静緒の顧客の様子は、あたかも「阪神間上流階級あるある」話です。

 訪問先の場所だけでも紹介してみましょう。
最初に登場するのは、西日本有数のブルジョア街として名高い神戸・御影の地主の倉橋家。
<美しい塀がある。築半世紀は経っているであろう漆喰の塗られた外周の壁。下方は貴重な小松石を贅沢に積んだクラシックな造り。瓦は葺き替えられてはいるが本瓦葺きの屋根というのに変わりはない。>
 阪急御影駅を降りると山崎豊子『華麗なる一族』のロケにも使われた旧大林義雄邸の塀、


旧乾邸の塀、


蘇州園(旧弘世助三郎邸)のれんが塀など、

それぞれ長く見事な塀が続きますが、ここに描かれた白い漆喰の塀は見つけられませんでした。

 次はやはり芦屋の高級住宅地六麓荘。

<六麓荘は、日本でも名のしれた高級住宅地である。日本広しといえども古い時代から景観を損ねるという理由だけで、住人が私費を投じて電柱をなくした街はほかにない。ここでは土地は百二十一坪以下に分筆できず、それだけの固定資産税と相続税を払い続けることができる者のみが居住を許されている。その六麓荘に住み続けれ前島家は、一族全員が有名なファッションデザイナーだ。>

 芦屋では他に西山手町の億ションに住む謎の富豪美女美谷朱里が登場します。

 しかし、実際には芦屋市には山手町は存在するのですが、「西山手町」は存在しません。
どうも山手町の西にある山芦屋町あたりを想定したようです。

 お仕事で外国に住まれることになったお客から住んでもらえないかと頼まれ、静緒が住むことになった想像を絶するほど豪奢な東芦屋町のマンションも登場します。
<芦屋の東芦屋町といえば、阪急芦屋川より北の芦屋の中でも一等地と呼ばれている場所だ。六麓荘など駅に向かうのに車で十分以上走らなければならない場所は別として、この場所時は駅から徒歩五分ほど。坂の上でも歩いて十五分ほどという好立地なのである。たしかに管理費だけでも十万以上もするマンションが林立している場所である。>

マンションの名はフランス語で気品という意味の
L’ Allure。
<プロヴァンス風の大きな門をくぐり、テラコッタタイルを踏んで少し歩くと、ようやく建物が見えてくる。ここにたどり着くまで二回セキュリティのためにキーが必要だ。
自動扉が開くと、まるでホテルのロビーのように広々とした空間があって、すぐに食器を洗うカチャカチャという音が耳に入った。なんとカフェテリアが営業している。中央に大きな天球儀を抱いた豪奢なシャンデリアが、ただの人工の明かりを無数の光の雨に変えている。覚悟はしていたが、ここは豪華すぎる。さすが管理費十万円のマンション様だ。>

海洋町にあるザ・レジデンス芦屋のようなイメージでしょうか。

尼崎の豪邸も登場します。

<尼崎・園田に住む秋吉太一郎はもう長いこと富久丸の外商を利用しているお客様で、このあたりの地主であり、現在は老人ホームや不動産業を経営している。かつて昭和四十年代に中東で活躍した大企業の石油マンだ。>

 もちろん西宮も登場します。タイで高級外車を扱うディーラーの会社を経営しているタイ人のお客さん、愛称「ベンツさん」の住む家です。
<西宮のヨットハーバー前に百坪以上ある邸宅を構え、一年中ウィンドサーフィンとヨットに明けくれている。海を愛する人間が彼のボートに集まりしょっちゅうパーティをするので、あおのたびに静緒は出かけて行って世話をする。一番しんどかったのは毎週のように行われる花火大会のシーズンで、ボートの上から花火をたのしみたいというベンツ氏の要望を叶えるため、西宮の警察署に何度も問い合わせてボートでどれくらいまで近づけるかを確認した。おかげで静緒には夏はなかった。>

新西宮ヨットハーバーだと思うのですが、このあたりには一戸建ての豪邸はありません。
しかし豪華な組み合わせです。

『上流階級 富久丸百貨店外商部』の最後は、
<ここは私が愛した百貨店。夢の宝石箱。午前十字富久丸百貨店芦屋川店、開店。>
で終わりますが、お客様の描写の方も夢の宝石箱をひっくりかえしたような上流階級の人達ばかりでした。しばらく現実の世界を離れて楽しめました。 




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夙川公園が登場する高殿円さんの『マル合の下僕』

 夙川公園を舞台にした文学作品を捜して、久々に西宮文学回廊を見ると、新しい作家、作品が増えていました。
http://nishinomiya.jp/bungaku/

その中で知らなかった作家が高殿円さん。
<1976年神戸市生まれで、武庫川女子大学文学部卒業。 一般文芸、ライトノベル、マンガ原作などを中心に、多方面で活躍するマルチ作家。完成度の高い緻密な構成の作風は老若男女を問わない幅広いファン層に支持されている。>と紹介されています。

 彼女の作品の中で、夙川公園が登場する小説が、『マル合の下僕』です。

(上の写真は高殿円さんのTwitterから拝借)

 新潮社からは次のように説明されていますが、西宮が舞台の小説でもあり、はらはらしながら最後まで読ませていただきました。
<マル合――それは、論文指導ができる教員。関西最難関のK大で出世ルートを歩むはずだった俺は、学内派閥を読み間違え私大に就職。少ない月収を死守しながら、姉が育児放棄した甥っ子も養っている。そんなある日、大切な授業を奪いかねない強力なライバル出現との情報が……。象牙の塔に住まう非正規雇用男子の痛快お仕事小説。>

 主人公の瓶子貴宣は、香櫨園女子大学・環境学部総合文化学科の非常勤講師。
<まだ出来て十年という新しい学科だが、香櫨園女子大自体は、戦前に創立された歴史のある学校だ。>と説明され、
さらに、
<図書館が混んできたので、さっさと荷物を片付けて大学を後にした。帰宅ルートである国道四三号線は、すぐ上を阪神高速神戸線が撮っていることで日陰になり、雲からの風もあってこの時期はものすごく寒い。>などと書かれています。

どうも国道43号線沿いにある高殿円さんご出身の武庫川女子大をモデルにしたようです。

 瓶子は年末の学会での発表前に風邪をこじらせ、肺炎を併発し県立西宮病院に担ぎ込まれ、退院できたのは大晦日の午後。

<県立西宮病院から歩いて我が家へ向かった。途中阪神西宮の駅では、すっかりクリスマス色が払拭されて、お正月を迎えるべく金と赤とのありがたい感じのディスプレイに一変していた。>


 家を出てしまった甥の誉と、夙川の豪邸に住む誉のガールフレンドの実加ちゃんが夙川公園で会うシーンが描かれていました。

<ちょうど香櫨園の北側、夙川沿いに公園が続いている。ここからは実加ちゃんの家も近い。春になったら夙川は山の方から海側まで一気に満開の桜並木に包まれる。毎年お花見客でごったがえす地元でも人気の公園には、まだ気温が低いせいか子供を遊ばせる親の姿もない。自転車を止めてゆっくりと歩いていく。外灯の下のベンチに小学生らしき男女が座っていた。>

 外灯の下のベンチとは『長門有希ちゃんの消失』にも出て来たベンチでしょうか。

 誉を家に連れて帰ろうと瓶子が香櫨園駅まで追いかけるシーンです。
<子供の足だと侮っていたのになかなか距離は縮まらず、どんどん離される一方だった。それでも夙川のちょうど真上にある香櫨園の駅に来たときは、まだ捕まえられると信じていた。改札をくぐったばかりの誉に飛びかかって止めたかったが、あいにくと切符がない。>

 この後、大阪行きと神戸行きのホームに別れてしまい、叫びながら離れ離れになるシーンが続きます。

私がこれまで調べた限りでは、竣工80周年を迎える夙川公園が描かれた最新の小説は、この『マル合の下僕』でした。


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読みました。面白かったです。
ご紹介くださりありがとうございました。

[ 西野宮子 ] 2017/04/14 11:51:00 [ 削除 ] [ 通報 ]

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阪急沿線の街にゆかりのある小説や随筆、アニメの舞台を訪ね、当時の景色や登場人物に思いを馳せるセンチメンタル散歩です。震災以降、街並みは大きく変わりましたが、歴史ある美しい景観を守る一助になればと思っています。

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