阪急沿線文学散歩

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田辺聖子さんは国道電車派(『わが街の歳月』より)

 田辺聖子さんは『わが街の歳月』で阪神間の電車についても述べられています。
<阪神間には、阪急・阪神・国鉄(現・JR)と三本の線が並行して走っていて、交通至便なること限りなく、それが住民の自慢でもあるが、阪神・阪急それぞれにヒイキがついているのも、おかしい。野球のことではない。電車のことである。>

 

(阪急電車、国鉄、国道電車、阪神電車路線図;甲子園ホテルパンフレットより)


 戦前、湯川家の人々は苦楽園の山の上から阪神間をミニチュアのように走る三本の電車を眺めて楽しんでおられました。湯川スミさんは『苦楽の園』で次のように述べられています。
<大阪の家より部屋数は少ないが、空気は綺麗だし、乾燥している上に、南に向いた山の中腹なので見晴らしが素晴らしかった。夜になると阪急、阪神、国鉄の電車や汽車の光が行き交い、えもいわれぬ景色だ。夕食後のひと時、私たちは家族みんなで窓際に並んで見とれたものであった。>

 

田辺聖子さんはこれらの電車の路線にはそれぞれヒイキがあると説明されます。
<会社自体も張り合っているのだろうけれど利用者同士、互いにヒイキがある。いや、利用していない人でも、熱心なヒイキがいて、野坂昭如氏のごとき、自分は住んでもいないし、電車を利用してもいないのに、「阪急はいい。阪急は客すじからしてちがう」と自分が阪急のオーナーのようにいばっていられる。少年のころ阪急沿線に住んでいられて、阪急電車に乗り合わせた美しい女学生にあこがれたか、ふられたかした、ご経験がおありになるのだろう。>
 確かに野坂昭如は門戸厄神にある神戸女学院生に淡い恋心を抱いていたことを小説で述べており、奥様はタカラヅカ出身の方ですから、阪急ファンになったのでしょう。

 

<一方、阪神電車は梅田を発する沿線工業地帯を走るので、車風というか、雰囲気がまるで違う。而して私はというとこれが国道電車派だったのだ。阪神国道二号線の沿線に住んだので、国道電車を利用していた。いまは取り払われてしまったが、トロトロと国道を走って玉江橋か野田阪神で乗り換える。そこから阪神の本線に乗り換えて梅田へ通勤通学した。あの電車は旅を楽しむ、あるいは春の日永をもてあます、といった人の乗り物であって、通勤通学には向いていなかったが、ラッシュ時はけっこう満員であった。そんなわけで、長期間利用したから、私としては阪神に馴染み深い。>


 今や無くなってしまった国道電車について、遠藤周作も『口笛を吹く時』で主人公小津に次のように語らせました。
<彼はタクシーに乗って、国道の住吉川まで行ってくれと頼んだ。「国道でっか」「そうだ。国道電車が走っている路があるだろう」そう言って彼はまぶたの裏に、古ぼけた褐色のあの電車を思い浮かべた。平目や自分を毎日、乗せてくれたノロノロとした電車。その電車に愛子のように甲南の生徒たちも乗ったのである。「ああ、あの電車やったら」と運転手はギヤを入れながら教えてくれた。「もうなくなりましてん」「廃線になったのか」「もう、あんな、のろい電車に乗る人もおりまへんやろ」しかし神戸から大阪に向かう国道だけはまだ残っていた。>
時代の趨勢とともに消え去った国道電車です。

 

 田辺聖子さんはタカラヅカファンらしく結ばれています。
<もっとも。いまでは神戸で、双方、山陽・神戸電鉄へとそれぞれ接続でき、便利になって、どちらがどうと軍配をあげるまでもないようになったが、片や阪神は甲子園球場を擁し、片や阪急は宝塚を擁する。野球勝つか歌劇勝つかの問題は、これは結論のでない争いであろう。>


 田辺さんもこれを書かれた頃は、まさか阪急・阪神が経営統合するなどとは思われてもみなかったことでしょう。


百貨店も統合され、先日阪神の地下食品売り場でワインを買って、入れてもらった袋の柄をよく見ると、昔の阪急百貨店、阪神百貨店が混在していました。




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阪急沿線の街にゆかりのある小説や随筆、アニメの舞台を訪ね、当時の景色や登場人物に思いを馳せるセンチメンタル散歩です。震災以降、街並みは大きく変わりましたが、歴史ある美しい景観を守る一助になればと思っています。

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