阪急沿線文学散歩

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小川洋子原作・映画『薬指の標本』映像化された標本づくり名場面

 小川洋子原作の『薬指の標本』はフランスの女性映画監督ディアーヌ・ベルトランにより、原作に忠実に映像化されています。

 これまで紹介できていない標本にまつわる名場面をまとめました。原作をお読みの方は、想像した場面と比べてみてください。
 まずわたしが何でもいいから一つ標本を見せてもらえないだろうかと弟子丸氏に頼んで、標本技術室から持って来たきのこの標本です。

<「これが標本ですか」わたしはつぶやいた。「そうです。このきのこを持って来たのは、十六歳くらいの女の子でした。彼女は石けんの空箱に脱脂綿を敷いて、その中にきのこを三つ並べていました。一目見て、標本にするのなら急がなければ、と思いました。既に乾燥と腐食が始まっていたからです」弟子丸氏もわたしも、試験管を見つめていた。>

次に楽譜を持って来た女性。

<「特殊すぎるなんてことはありません。安心してください。これなら、二日くらいで完成しますよ」「でも、わたしがお願いしたいのは、楽譜そのものではなく、そこに記されている音楽、音楽なんです」>

309号室婦人に楽譜を見せ、ピアノで弾いてもらえないだろうかと頼みます。

<いよいよ演奏が始まる段になって、ここのもう一人に住人、223号室婦人も招待されることになった。彼女は元交換手で、今は毎日部屋に閉じこもって手芸ばかりしている、親切なおばあさんだった。>

<それは不思議な曲だった。依頼人はビロードで身体を包むような優しい曲……と言ったが、わたしにはもっと複雑で乾いた感じに聞こえた。>

<弟子丸氏は楽譜を筒状に丸め、試験管の中にしまい、コルクで栓をした。それから『26-F30774』番のシールをコルクに貼り、依頼人の望む音の標本は完成した。>

きのこの標本を頼んだ少女が二つ目の標本を作ってもらいにやって来ます。

<雨の降る朝、一人の少女がやってきた。長い髪を後ろで一つに束ね、オーソドックスなデザインのワンピースを着ていた。彼女は傘の先からこぼれ落ちる雨のしずくを気にしながら、受付室のドアを開けた。>

その少女が頼んだのは彼女の頬にあるやけどの跡でした。

<彼女の頬には火傷の跡があった。でも決して、ひどいものではない。模様の入ったベールの切れ端が被さっているような、目立たない、淡い火傷だった。その傷跡を透かして、彼女の頬の白さが見えてきそうなくらいだった。>
原作通りの頬の火傷の跡でした。

次に文鳥の骨を持って来たおじいさん。

<「何ですか、これは」わたしは聞いた。「文鳥の骨さ」しわがれた声でおじいさんは答えた。「十年近く一緒に暮らしたんだが、おととい死んでしまった。老衰だ。しょうがねえな、寿命だから。火葬にしてやったんだ。残ったのが、この骨だ」>

おじいさん私が履いている靴に気付きます。五十年も靴磨きをしているおじいさんからの忠告です。

<「でも一つ、忠告しとく。いくらはき心地がいいからって、四六時中その靴に足を突っ込むのは、よくないと思うよ」「なぜですか?」「あまりにも、お嬢さんの足に合いすぎてるからさ。外から見ただけでも、怖いくらいだ。ずれがなさすぎるんだよ。靴と足の境目が、ほとんど消えかかっているじゃないか。靴が足を侵し始めてる証拠だよ」>

そして冬になっておじさんおじいさんの所へ靴を磨いてもらいに行きます。

<「おー、やっぱり思ったとおりだ」台の上にのったわたしの足を見て、おじいさんはうなった。「これは並みの靴じゃない。前よりも一段と浸食が進んでいる」「本当ですか」>

火傷の少女の姿が見えなくなり、標本保管室をくまなくまわる場面です。

<部屋番号をさかのぼればさかのぼるほど、引き出しのつまみも、試験管のシールも、標本も、中にこもった空気も、古くなっていった。キャビネットの間を歩くと、降り積もっていた時間が粉雪のようにふわふわと、足下から舞い上がってくる気がした。>


そして最後にわたしが薬指を標本にしてもらいに、標本技術室の扉を開けます。

ディアーヌ・ベルトラン監督は、見事に小川洋子さんの『薬指の標本』の世界を解読し、小川ワールドを映像化してくれました。


 主演のわたし(イリス)を演ずるオルガ・キュリレンコも美しく、弟子丸氏(標本技術士)役のマルク・バルベの演技も素晴らしいものでした。
最後にもう一度小川洋子さんの言葉を添えておきます。





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阪急沿線の街にゆかりのある小説や随筆、アニメの舞台を訪ね、当時の景色や登場人物に思いを馳せるセンチメンタル散歩です。震災以降、街並みは大きく変わりましたが、歴史ある美しい景観を守る一助になればと思っています。

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