阪急沿線文学散歩

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阪急沿線フリーク阪田寛夫が大好きだった藤澤桓夫の『新雪』

 『新雪』は、昭和16年から17年にかけて、朝日新聞に田村孝之介挿絵で連載された藤澤桓夫の代表作といわれる小説で、モンゴル語学者の娘、弟子、教師、女医の四人の恋愛模様が、六甲山を背景に描かれています。


  翌年、五所平之助監督、月丘夢路主演で映画化されており、小説や映画をご存じない方でも、灰田勝彦が歌う主題歌「♪紫けむる新雪の峰ふり仰ぐ、この心〜」はご存知の方が多いのではないでしょうか。

 
 さて真珠湾攻撃直前から始まった連載小説に、当時旧制中学四年生の阪急沿線フリークだった阪田寛夫は毎日読むのを楽しみにしていて、「読む時だけは心が晴れる気持ちになった」と述べています。

 阪田寛夫『わが小林一三』からです。
<その原因の一つは、阪急神戸線沿線が舞台になっていることで、東京の作家の目ではなく、大阪や神戸という土地の性質を深く知る人が、この町の値打ちにふさわしい光を松林や月見草や家のたたずまいに投射して描き出していると、子供の心にも信じられたからである。>

 映画で主演の月丘夢路が演じたのは女医の片山千代ですが、阪田寛夫は、東洋言語学者の父の助手をしている静かな娘保子に思慕の情が集中したと述べ、
<心身ともに清楚で、決して露わに出さない美しさと聡明さを備えている理想的な女性が、本当にそのひとらしく美しく生きられる場所は、当時の我が国では阪急神戸線沿線以外にはなかったと、中学生の私はこの小説がもうすぐ終わるころに、かなしくなるほどに確信した。>


 美しく理想的な女性が住む場所は阪急神戸線沿線以外にないというまでに阪田寛夫がのぼせた『新雪』がどんなものか、読んでみようと探したのですが、西宮、芦屋の両図書館にもamazonにも在庫はなく、古書もべらぼうに高く、諦めかけていたところ、ようやく大阪府立中之島図書館でみつけ、読ませていただきました。

 主人公 蓑和田良太 女医 片山千代 言語学者の娘 湯川保子 ともに六甲駅付近に住んでいおり、そのあたりの夜の風景が、千代が良太の下宿先のタバコ屋に向かう場面で描かれています。
<戸外はよい月夜だった。右側から松林の影がくっきりと落ちている白い道を、千代はぶらぶらと歩き出した。少し冷え冷えしすぎる夜気が、千代の若い膚には、却って快いものに感じられた。>
 この時代、阪田寛夫も述べているように阪神間の風景は、松林と白い道に代表されていたようです。
<月かげのなかを仰ぐと、澄み切った夜空にオリオンが砂糖菓子のように光っていた。そして、星を見ていると、千代の心には、孤独感とも幸福感ともつかない切ない感傷が湧き上がってきた。彼女の頭上に煌いている星は、千代に、今日の夕暮れ、駅から蓑和田良太と一緒に戻って来る途中、六甲の山々の上で光り出していた星の色を思い出させるのだった。>

このように抒情豊かに描かれた阪急沿線の風景に、少年阪田寛夫の心はどっぷりつかり込んでいたようです。




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阪田寛夫 | コメント( 2 ) | トラックバック( 0)

 私の父や伯母は小林一三爺と親しく 宝塚歌劇を一緒に感激したり歌劇の生徒さんと一緒にお茶を飲んだりしたことがあるとよく言ってました。

[ モンセ分店薬局 薬剤師徒然日記 ] 2017/10/08 7:30:53 [ 削除 ] [ 通報 ]

そうだったのですか。もし記念の品でもあれば是非ブログでご紹介ください。

[ seitaro ] 2017/10/08 12:21:03 [ 削除 ] [ 通報 ]

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阪急沿線の街にゆかりのある小説や随筆、アニメの舞台を訪ね、当時の景色や登場人物に思いを馳せるセンチメンタル散歩です。震災以降、街並みは大きく変わりましたが、歴史ある美しい景観を守る一助になればと思っています。

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