阪急沿線文学散歩

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遠藤周作ゆかりの地が舞台となった『砂の城』

『砂の城』は昭和51年主婦の友社より刊行された作品で、学生運動やハイジャックなどの時代背景ともに、遠藤周作が『沈黙』執筆にあたり何度も訪れた長崎、留学時代にも滞在したことのあるパリの風景、そして少年時代に過ごした西宮・宝塚を舞台にし、自身も患った結核体験も題材にした青春小説です。


 主人公泰子が4歳の時、母は結核で亡くなりますが、小説の冒頭は、16歳の誕生日に本人に見せて欲しいと託した母の手紙に始まり、思わず引き込まれていきます。
 泰子の住む町は大村湾の見える町。遠藤周作は日本最初のキリシタン大名大村純忠が治めていた大村領を舞台に取り入れたかったのではないでしょうか。
<商店街を右に折れると寺町に入る。こんな昼下がりでも、ひっそりと静まりかえった道が長い塀にはさまれて真直ぐに続いていた。塀の上からもうすっかり青みをました楠の葉がおおいかぶさるようにのぞいていた。泰子は雨上がりのこの道が好きで、ここを通るたび自分の故郷はこの街と思ったり、いつかお嫁にいっても生涯、よそには移りたくないと考えたりした。>
 これだけでは、泰子の住む町はどのあたりかはっきりしませんでしたが、次の文章からほぼわかりました。
<鬱蒼と樹木に覆われた城山から初蝉の鳴き声が聞こえてくる。城山といっても、もう石垣しか残っていないが、むかし大村家の一族が住んでいた場所なのである。>

この城山とは玖島(大村)城の二の丸、三の丸跡に繁茂する樹林で、長崎県の文化財にもなっている玖島崎樹叢のことのようです。
大村市のこの近くに電気器具店を営む素子の実家が設定されたようです。

 泰子の誕生日の日、学校から帰ると父は金庫から紫色の袱紗に包まれた白い封筒を渡します。
生前の母が父に託した「素子ちゃん」という書き出しで始まる手紙でした。
<母さんはこの手紙をあなたが十六歳になった誕生日にお父さまから渡して頂くようたのむつもりです。なぜなら、今の泰子ちゃんはまだ字も読めないですし、ここに書いてあることも、よくわからないでしょう。あなたを毎日、見たいけれど、幼児がこの病棟に来ることはきびしく禁じられているので、ほかの母親のように膝の上にあなたをおいてお話をしてきかせることもできないからです。>
 結核を患い死の恐怖と闘った遠藤周作だからこそ、このような美しい文章を書くことができたのでしょう。
<でも何から書きましょう。この手紙をわたすのは。あなたが十六歳の誕生日の時なのね。なぜ、その日までこの手紙を見せないのか、ふしぎでしょう。でも母さんには、十六になったあなたが、同じ年の時の母さんとどう重なりあい、どう違うか、知りたいと思います。
だから、この手紙を母さんが十六歳になった時の話からはじめましょう。そうすればあなたも身につまされて読んでくれるでしょう。その頃母さんの家族は亡くなったお祖父さまの仕事で、大阪と神戸との間にある甲東園という場所に住んでいました。住んでいた家は今は空襲でなくなってしまいましたが、もし、いつか機会があったら、電車にのって西宮北口という駅で宝塚に行く阪急の支線に乗り換えてごらんなさい。十六歳の時の母さんが見た山や空をきっとあなたもそのまま眺めることができるでしょう。>
この西宮北口から宝塚に行く阪急の支線とは、有川浩原作の映画『阪急電車』で一躍有名になった阪急今津線です。

甲東園は西宮北口から二番目の駅。

阪急甲東園駅から上ヶ原台地に向かう坂道です。このあたりに泰子の母は、少女時代住んでいたのです。
もう少し続けましょう。







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阪急沿線の街にゆかりのある小説や随筆、アニメの舞台を訪ね、当時の景色や登場人物に思いを馳せるセンチメンタル散歩です。震災以降、街並みは大きく変わりましたが、歴史ある美しい景観を守る一助になればと思っています。

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